問 題
化学物質のリスク評価に関する記述として、正しいものはどれか。
- 化学物質によるリスクは、有害性のみを考慮すればよい。
- 無影響量(NOEL)や無毒性量(NOAEL)は、一般に閾値が存在しない化学物質の有害性評価に用いられる。
- 耐容一日摂取量(TDI)は、最も感受性の高い動物を用いた試験で得られたNOEL又はNOAELに、不確実係数を乗じたものである。
- 不確実係数には通常100が用いられるが、この値は動物から人へ外挿するときの種差による係数を10、個体差による係数を10と見込んだものである。
- 実質安全量(VSD)は、一般に閾値が存在する化学物質の有害性評価に用いられる。
解 説
(1)について、有害性の強い物質でも微量であれば大した悪影響はなく、有害性の低い物質でも大量に暴露したら危険性が増します。よって、化学物質によるリスクは、有害性を考慮するだけでは不充分で、その物質の有害性と暴露量の両方を考慮する必要があります。
(2)で、無影響量(NOEL)や無毒性量(NOAEL)は「無」とあるように、一定の閾値以下であれば影響や毒性が現れないので気にしなくて大丈夫…といった判断ができます。よって、これらは閾値が存在する化学物質の有害性評価に用いられます。
一方、閾値が存在しない化学物質の有害性評価に用いられるのは、実質安全量(VSD)です。
閾値がないので、少量含まれているだけでも絶対安全とはいえないのですが、それでも実験などから得られたデータを元に算出された量であればほとんど問題なく容認できるはず、という考え方で算出される量がVSDです。
(3)は、「不確実係数を乗じたもの」ではなく、「不確実係数で割ったもの」です。
たとえばネズミだと1000、イヌだと500、ブタだと200ほど暴露したら毒性が出る物質があるとします。この場合、どの動物を基準にするかといえば、最も感受性の高い動物を基準にしたほうが安全なので、ここではブタの200を基準とします。
ただし、ヒトとブタとでは感受性に違いがあるかもしれないので、ブタの基準200をそのままヒトに当てはめるのはリスクがあります。よって、安全側で考えるため、ヒトのほうが最も感受性の高い動物よりも10倍の感受性があると仮定します。
さらに、ヒトはヒトでも個体差(個人差)があるので、平均的なヒトに対して感受性の高いヒトはやはり10倍くらいの差があると仮定します。よって、種差による10倍と個体差による10倍を合わせた100倍を不確実係数とします。
ここで、先ほどの例だとブタなら200まで暴露しても大丈夫ということでしたが、これをヒトに当てはめる際には、安全率として不確実係数100で割ることで、この物質の場合は2までなら暴露してもよい、と算出できます。この値がTDIです。
(4)については(3)の解説に書いた通りです。これは正しいので、正解は(4)です。
(5)については(2)の解説に書いた通りです。VSDは閾値が存在しない化学物質の有害性評価に用いられます。
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