問 題
パワー半導体スイッチングデバイスとしては近年、主にIGBTとパワーMOSFETが用いられている。両者を比較した記述として、誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
- IGBTは電圧駆動形であり、ゲート・エミッタ間の電圧によってオン・オフを制御する。
- パワーMOSFETは電流駆動形であり、キャリア蓄積効果があることからスイッチング損失が大きい。
- パワーMOSFETはユニポーラデバイスであり、バイポーラ形のデバイスと比べてオン状態の抵抗が高い。
- IGBTはバイポーラトランジスタにパワーMOSFETの特徴を組み合わせることにより、スイッチング特性を改善している。
- パワーMOSFETではシリコンのかわりにSiCを用いることで、高耐圧化をしつつオン状態の抵抗を低くすることが可能になる。
解 説
MOSFETとIGBTの基本的なことは「MOSFETとIGBT」のページにまとめてあるので、これらに馴染みのない方は以下の解説を読む前に参照しておくことをお勧めします。
(1)は正しい記述です。IGBTは電圧駆動形であり、その構成要素は、C(コレクタ)、E(エミッタ)、G(ゲート)の3つです。下図右側の回路記号からもわかるように、G-E間の電圧によってオン・オフを制御することができます(下図では参考のため、バイポーラトランジスタとMOSFETの回路記号も併記します)。
(2)が誤りの記述です。
まず、パワーMOSFETは「電流駆動形」ではなく「電圧駆動形」です。バイポーラトランジスタ、MOSFET、IGBTの駆動方法は次の通りです。
- バイポーラトランジスタ:電流駆動形
- MOSFET :電圧駆動形
- IGBT :電圧駆動形
また、MOSFETは低電圧領域での変換効率が高いことと、スイッチング速度が速いという長所を持っているため、主に電圧が低い変換装置において、高い周波数でスイッチングする用途に用いられます。
つまり、(2)の後半部分の「キャリア蓄積効果があることからスイッチング損失が大きい」も誤りで、「キャリア蓄積効果がなく、スイッチング損失が小さい」とするのが正しいです。
電流駆動形でキャリア蓄積効果によりスイッチング損失が大きいという(2)の記述は、バイポーラトランジスタに当てはまる特徴といえます。
(3)は正しい記述ですが、ややマイナーな知識になるので、この選択肢はあまり気にしなくてもよいかもしれません。
パワーMOSFETはユニポーラ(単一方向にのみ電流が流れる)デバイスであり、バイポーラ形(双方向に電流が流れる)デバイスと比べるとオン抵抗が高くなります。そのため、オン動作時の電力損失は大きいです。
(4)も正しい記述です。(1)の解説で示した図の通り、IGBTの構造は、コレクタとエミッタ部分はバイポーラパワートランジスタから、ゲート部分はパワーMOSFETから取っていて、両者の合わせ技のようになっています。
両者の良いとこ取りのような位置づけであり、使い勝手の良い(=適用範囲の広い)タイプのトランジスタといえます。
(5)も正しい記述です。Si(シリコン)にC(炭素)を加えたSiC(シリコンカーバイド)は、比較的新しく登場した半導体材料です。
従来のSiと比べ、高耐圧化と高耐熱化を実現することでオン状態の抵抗を低減できることなどから、機器の小型化や高効率化、高速スイッチングの実現など、多くの優れた点が挙げられます。そのため、近年はSiC(シリコンカーバイド)を使ったパワーMOSFETが増えてきています。
以上から、誤りの記述は(2)なので、正解は(2)となります。
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