電験三種 R1年 理論 問17 問題と解説

 問 題     

NAND ICを用いたパルス回路について、次の(a)及び(b)の問に答えよ。ただし、高電位を「1」、低電位を「0」と表すことにする。

(a) pチャネル及びnチャネルMOSFETを用いて構成された図1の回路と真理値表が同一となるものを、図2のNAND回路の接続(イ)、(ロ)、(ハ)から選び、全て列挙したものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

  1. (イ)
  2. (ロ)
  3. (ハ)
  4. (イ)、(ロ)
  5. (イ)、(ハ)

(b) 図3の三つの回路はいずれもマルチバイブレータの一種であり、これらの回路図においてNAND ICの電源及び接地端子は省略している。

同図(ニ)、(ホ)、(ヘ)の入力の数がそれぞれ0、1、2であることに注意して、これら三つの回路と次の二つの性質を正しく対応づけたものの組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

性質Ⅰ:出力端子からパルスが連続的に発生し、ディジタル回路の中で発振器として用いることができる。

性質Ⅱ:「0」や「1」を記憶する機能をもち、フリップフロップの構成にも用いられる。

  • 性質Ⅰ 性質Ⅱ
  1. (ニ)  (ホ)
  2. (ニ)  (へ)
  3. (ホ)  (ニ)
  4. (ホ)  (ヘ)
  5. (ヘ)  (ホ)

 

 

 

 

 

正解 (a)-(5), (b)-(2)

 解 説    

(a)

問題文にも記載がある通り、図1はnチャネルMOSFETとpチャネルMOSFETを組み合わせたもので、このような半導体集積回路(IC)を相補型MOS(CMOS)といいます。

nチャネルMOSFETとpチャネルMOSFETはそれぞれ以下のような記号で表すことができます。いずれのタイプも、MOSFETの構成要素は、D(ドレーン)、S(ソース)、G(ゲート)の3つです。

nチャネルMOSFETでは、G(ゲート)に正の電圧VGSを加えるとD(ドレーン)とS(ソース)が接続され、D→Sの向きに電流が流れます。

pチャネルMOSFETでは、G(ゲート)に負の電圧VGSを加えるとS(ソース)とD(ドレーン)が接続され、S→Dの向きに電流が流れます。

上図の記号と問題の図1に描かれている矢印の方向を照らし合わせると、図1の上半分がpチャネルMOSFET、下半分がnチャネルMOSFETであることがわかります。

ここで、入力が「1」だと高電位を示すので、VGSが正の電圧となり、nチャネルMOSFET側のD→S方向に電流が流れます。つまり、出力は上図の「0」の側と接続されるため、入力が「1」のときに出力は「0」となります。

一方、入力が「0」だと低電位を示すので、VGSが負の電圧となり、pチャネルMOSFET側のS→D方向に電流が流れます。つまり、出力は上図の「1」の側と接続されるため、入力が「0」のときに出力は「1」となります。

以上から、図1の回路は、入力が「1」なら出力が「0」となり、入力が「0」なら出力が「1」となることがわかります。つまり、入力と出力が反転することになります。

これを踏まえて図2を見ていきます。

図2はNAND回路となっていますが、「NAND」は「AND」と「NOT」を合わせたものです。考え方としては、まずは「AND」と同様に考えて、その出力結果を反対に(「NOT」に)するというものです。つまり、出力の結果は「AND」のときと真逆になります。

(入力、入力、出力)=(0,0,1)、(0,1,1)、(1,0,1)、(1,1,0)

(イ)の場合は入力が「1」だとNAND回路に入るのは「1」と「1」になるので、出力は「0」になります。一方、入力が「0」だとNAND回路に入るのは「0」と「0」になるので、出力は「1」になります。

以上から、この場合は入力と出力が反転しているので、図2の(イ)は図1の結果と合致します。

(ロ)の場合は入力が「1」だとNAND回路に入るのは「1」と「0」になるので、出力は「1」になります。一方、入力が「0」だとNAND回路に入るのは「0」と「0」になるので、出力は「1」になります。

以上から、入力が「1」のときに出力が反転していないので、図2の(ロ)は図1の結果と合いません。

(ハ)の場合は入力が「1」だとNAND回路に入るのは「1」と「1」になるので、出力は「0」になります。一方、入力が「0」だとNAND回路に入るのは「0」と「1」になるので、出力は「1」になります。

以上から、この場合は入力と出力が反転しているので、図2の(ハ)も図1の結果と合致します。

よって、条件に合うのは(イ)と(ハ)となるので、正解は(5)です。

(b)

図3の(ニ)を見ると、図2の(イ)にあるNAND回路が2つ並んでいるような構成となっています。この形のNAND回路は入力が「1」なら出力が「0」、入力が「0」なら出力が「1」と反転するというのは(a)の解説の通りです。

よって、仮に(ニ)の回路の左端から「1」でスタートした場合、それぞれの箇所での「0」or「1」は次の図のように書き込むことができます。

ここで、上図赤点線で囲ったところに注目してください。抵抗の上側が高電位(1)、下側が低電位(0)となっているため、抵抗の上から下に向かって電流が流れ、さらにその左側にあるコンデンサへと進んで充電が始まります。

その後しばらくするとコンデンサが充電が完了しますが、その頃には充電によって赤点線枠の下側が高電位(1)に変わっています。よって、各場所での電位の「0」or「1」は次の図のように変化します。

すると、今度はコンデンサを流れる電流の向きが代わり、コンデンサに蓄えられた電気は放電されます。そして放電が完了したら元の状態に戻り、再び充電が開始される…という繰り返しになるので、(ニ)の回路は出力が「0」になったり「1」になったり絶えず変化しています。

以上から、(ニ)の回路は性質Ⅰに該当することがわかります。


続いて、図3の(ホ)について考えます。

まずは入力が「0」のときを考えると、この場合は左側のNAND回路の出力は必ず「1」になるので、次のような図が描けます。ちなみに、接地面は常に低電位(0)です。

この場合は上図赤矢印で示した方向に電流が流れ、コンデンサへの充電が始まりますが、充電が完了した暁にはここが高電位(1)から低電位(0)へと変わります。

上図の状態は、抵抗の前後やコンデンサの前後がどこも低電位(0)であり、電流が流れない安定な状態です。この形になると、時間が経ってもこのまま変化が起こりません。

一方、入力が「1」であってもほとんど同様のことが起こります。

上図を見てわかる通り、一旦はコンデンサに電流が流れますが、結局は先ほどと同じように充電が完了したあとは動きのない状態に落ち着きます。

よって、(ホ)の回路は入力がどうであれ、出力はいずれ「1」となって落ち着くような回路となります。これに該当する説明文はないため、(ホ)は答えとなりません。


最後に、図3の(ヘ)について考えます。

(ヘ)の回路では入力が2つあるため、各入力パターンに対する出力を当てはめていくと、次のようになります。

上図の上から3つのパターンは、回路図をたどっていけばわかりやすいと思います。ただし、入力が2つとも「1」である一番下の場合は少しだけ複雑です。この場合、入力だけでは出力の値が決まらないので、出力の値を仮定する必要があります。

もし出力を「0」とした場合には、回路図に各数字を記入していくと、1周回ったあとの出力も「0」となることがわかります。同様に、出力を「1」と仮定すると、1周したあとの出力も「1」になっています。

よって、入力が2つとも「1」のとき、出力結果はもともとの出力が維持されるということを示します。

以上から、これは現在の入力と過去の入力系列(=今の出力状態)の両方で出力が決まる論理回路なので、フリップフロップの構成をとっています。

つまり、(ヘ)の回路は性質Ⅱに該当することがわかります。


上記のことより、性質Ⅰは(ニ)、性質Ⅱは(ヘ)となるので、正解は(2)です。

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