問 題
国家と権力に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.N.マキアヴェリによると,権力を獲得し,維持するために君主は誠実であることが求められることから,反道徳的な政策を常に慎まなければならない。また彼は,権力の発揮に必要な軍隊について,当時のフィレンツェにおける自国民からなる軍隊の士気が低かったことを懸念し,外国人を主体とする傭兵制度を導入すべきだと主張した。
2.M.ヴェーバーは,支配者による物理的暴力行使を正統であると,被支配者がみなさなければ支配は安定しないと考えた。また,政治にとって決定的な手段は暴力であることから,政治に携わる者は権力行使がもたらした最終的な結果に責任をとる覚悟(責任倫理)を持たなければならないと説いた。
3.K.マルクスは,早くに市民革命が起こった国家においては資本家階級が強大な権力を持ち,その資本家階級を支える資本主義経済が内部矛盾から必然的に恐慌という形で破綻することはないと考えた。そのため,労働者階級が共産党の下に団結し,選挙という手段を用いて資本家階級から権力を奪うべきだと主張した。
4.M.フーコーによると,自らの意思に基づき合理的決定を行うと推定される「主体」とは決して実体的なものではなく,近代社会の黙示的な権力構造によって生み出されたものにすぎない。彼は,厳しい監視と拷問により近代社会の行動様式を強制する装置であるパノプティコン(一望監視装置)を考案し,英国の刑務所における普及に貢献した。
5.辻清明によると,戦前の我が国の官僚制の特徴は,第二次世界大戦の敗戦を境に,戦後には継続されなかった。その上で彼は,戦後,特権的官僚制を改革し民主化することが我が国の民主化の最大の課題であり,そのためには,後見性の原理に基づく家産官僚制を新たに構築する必要があると主張した。
解 説
選択肢 1 ですが
マキアヴェリが『君主論』の中で述べた「マキャベリズム」は、目的のためには手段を選ばないやり方です。「誠実であることが求められる」「反道徳的な政策を常に慎まなければならない」といった記述は妥当ではありません。また、君主論において、国家の土台はよい法律と武力であり、よい武力とは自国軍と考えました。「傭兵制度を導入すべき」と主張したわけではありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 は妥当です。
ヴェーバーの、支配についての記述です。
選択肢 3 ですが
マルクスの主張は、人類の歴史を「階級闘争の歴史」と捉え、階級の無い社会を理想とするものです。「選挙という手段を用いて資本家階級から権力を奪うべきだ」と主張したわけではありません。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
前半は妥当な記述です。後半部分ですが、パノプティコンは、功利主義者ベンサムが設計、考案しました。フーコーではありません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 ですが
辻清明によれば、官僚制度の特徴は「強圧抑制の循環」です。そして、この社会的特質は、戦後改革の中でも根強く生き残り、政治的な民主化への阻害要因になっていると指摘しました。「第二次世界大戦の敗戦を境に、戦後には継続されなかった」わけではありません。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 2 です。
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