問 題
企業の戦略に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.1970 年代から1980 年代にかけて,日米企業の国際競争力が逆転した理由の一つとして,R.P.ルメルトは,コア・コンピタンスの活用の有無を挙げた。経営資源に乏しい日本企業は,事業を単位として戦略を考える手法であるコア・コンピタンスを活用して経営戦略を展開したことにより,米国企業に対して,国際競争力を向上させることができた。
2.製品ライフサイクルの導入期における代表的な戦略は,低価格化を追求する浸透価格戦略と利益最大化を追求する利益志向価格戦略である。しかし,競合他社との競争において,この二つの価格戦略を同時に追求しようとすると,中途半端な業績に陥るとされており,こうした状態をスタック・イン・ザ・ミドルと呼ぶ。
3.M.E.ポーターが提示したバリュー・チェーン(価値連鎖)は,事業活動の中から付加価値を生み出す個別活動を識別するための分析枠組みであり,同一業界の企業は同様の価値連鎖を有するとされる。バリュー・チェーンを構成する諸活動は,全般管理,人事労務管理,研究開発などの主活動と,購買物流,製造,販売・マーケティングなどの支援活動とに区別される。
4.競争優位の源泉を,企業の保有する資源ではなく活動に着目して分析するための手法がVRIOフレームワークである。企業はこの手法を用いて,自社の活動のうちで,経済価値(Value)を生み出すような,稀少性(Rarity)は高いが模倣可能性(Imitability)は低い活動を特定し,その活動が収益をあげられるような機会(Opportunity)を識別することができる。
5.H.I.アンゾフは,企業の成長を拡大化と多角化に分類し,さらに拡大化について,現在の製品・市場でのシェア拡大である「市場浸透」,新たな製品の開発である「製品開発」及び新たな市場に進出する「市場開拓」に分類した。また,多角化は,製品と市場についてどちらも新しいものに進出することであり,コングロマリット的多角化など幾つかのタイプのものがあるとした。
解 説
選択肢 1 ですが
コア・コンピタンスは、ハメルとプラハラードが「将来にわたり競争優位の源泉となる企業の能力」として提唱した概念です。「事業を単位として戦略を考える手法」ではありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
導入期における代表的戦略は、浸透価格戦略と「上澄み吸収価格戦略」(H27no46 既出)です。「利益志向価格戦略」という名前ではないと考えられます。選択肢 2 は誤りです。
ちなみに、スタック・イン・ザ・ミドルは、トレードオフ関係にある2つの目的を同時に追求しようとして失敗することです。トレードオフとは、何かを達成するためには何かを犠牲にしなければならない関係のことです。参考)H27no50
選択肢 3 ですが
ポーターが提示したバリュー・チェーンについての記述です。「同一業界の企業は同様の価値連鎖を有するとされる」という部分が明らかに誤りです。例えば保険業界であっても、ネット中心の企業と店舗中心の企業では、バリュー・チェーンが異なると想像できるのではないでしょうか。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
VRIO フレームワークは保有資源の分析フレームワークの一種です。資源の価値や希少性などを分析します。「資源ではなく活動に着目して分析」ではありません。(H26no48 既出)。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は妥当です。
戦略的経営の父と呼ばれたアンゾフについての記述です。参考 H27no46
以上より、正解は 5 です。
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