公務員試験 H28年 法務省専門職員 No.9解説

 問 題     

発達を規定する要因に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1.ワトソン(Watson, J.)は,巧妙な条件づけの手法を用いた実験を行い,ネズミやハトに対しては,どんな行動でも形成することができることを示して行動主義による説明を行った。一方,人間については,単純な条件づけの原理だけでは説明できず,遺伝的な要因も重要であるとして,相互作用説を唱えた。

2.ゲゼル(Gesell, A.)は,遺伝的に等しい一卵性双生児(A児・B児)を対象に,生後46 週目から,A児に対して6 週間,B児に対して3 週間の階段歩行訓練を行った。その結果,生後52 週目では,A児とB児の歩行能力に差があることが明らかとなり,ゲゼルは,この結果を訓練期間の違いによるものとして,人間の発達には環境的要因が大きく影響すると主張した。

3.ヴィゴツキー(Vygotsky, L.S.)は,人間の発達について,子どもが自らの経験をどのように内なる世界に取り込み,自己を確立するのかを解明しようとした。ヴィゴツキーによれば,子どもは,文化や歴史といったマクロな要因ではなく,その子を取り巻く直接的な状況や文脈と深く関わり,周囲の人々との言語的コミュニケーションの過程を経て発達する。

4.ブロンフェンブレンナー(Bronfenbrenner, U.)は,個人を取り巻く周囲の環境を生態学的環境と捉え,四つに分類した。それは,①マイクロシステム:その人を直接包み込んでいる行動場面,②メゾシステム:その人が積極的に参加している二つ以上の行動場面間の相互関係,③マクロシステム:文化全体のレベルで存在する一貫性や信念体系,④エクソシステム:その人が直接参加しておらず,影響を受けることのない世界,の四つである。

5.ジェンセン(Jensen, A.R.)は,遺伝と環境要因が発達に及ぼす影響について,遺伝的資質はその特性によって環境要因から受ける影響の程度が異なり,環境は一つの閾値要因として働くと主張した。例えば,身長などの特性では,環境にさほど影響を受けることなく素質が開花するが,絶対音感などは,最適な環境条件が与えられたときにのみ顕在化し,学業成績などはそれらの中間の閾値として環境条件の影響を受けるとされる。

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

選択肢 1 ですが
ワトソンといえば行動主義心理学の創始者です。白いネズミを怖がるようになったアルバート坊やの実験が有名です。「遺伝的素養によらず、泥棒から医者まで何にでも育ててみせよう」と豪語したと言われています。発達について環境説を唱えました。相互作用説ではありません。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
ゲゼルは一卵性双生児の階段のぼりの実験から、訓練しなくても身体的成熟が進めば、訓練を行った場合と同等の技能を示すことを明らかにしました。そして学習成立のための内的な準備状態としての「レディネス」という概念を提唱しました。発達について、ゲゼルは遺伝説の立場です。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
ヴィゴツキーは、言語の媒介に注目し、発達過程において外言→内言という2つの水準で現れると主張しました。また、個人内だけでなく、社会的・文化的要因の重要性を指摘しました。その中で、独力と、他者からの助けにより解決できる発達水準とのズレを「発達の最近接領域」と呼びました。「文化や歴史といったマクロな要因ではなく」という部分が妥当ではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
それぞれのシステムについての記述は妥当です。順番ですが、マイクロシステム→メゾシステム→エクソシステム→マクロシステム です。また、後にクロノシステムが追加されています。選択肢 4 は誤りと考えられます。

選択肢 5 は妥当です。
ジェンセンの環境閾値説です。

以上より、正解は 5 です。

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