問 題
英国の教育社会学者 B.バーンスティンに関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.教育では,職業に役立つ知識や技術を教えているのではなく,経済的地位に応じたパーソナリティ特性を教え,それに基づく選抜を行っているとした。学校は,裕福な家庭の子供には精神的な価値を伝え,貧困家庭の子供には物質的な価値を伝えるとした。
2.個人に対してなされた教育・訓練などの投資を個人に蓄積された資本とみなす,人的資本概念を提唱した。大学進学は個人の経済合理的な行動である一方,教育に投資することで,経済成長だけでなく,低所得層への教育投資により経済格差の是正が図られるとし,この是正の仕組みを「メリット・システム」と呼んだ。
3.機会の不平等概念について,進学行動には階層による違いが存在することと,平等化を促すはずの教育を受けても社会的な平等が促進されないことの二つに分けた。この不平等が生じるメカニズムは,英国のハマータウンの子供のドキュメント分析から導き出したものである。
4.対話様式の民衆教育の実践を提起した。具体的には,この実践は単に文字を学習するのではなく,抑圧され搾取された人々が,自らの抑圧された状況を識字教育を通して理解し,自覚的,主体的にその状況を変革していく過程をつくり出すことであった。そして,その過程を「ゼロ・トレランス」と呼んだ。
5.話し言葉により,学校における知識の伝達・獲得をいかに社会階級が規定するか,学校における知識の伝達・獲得が社会階級の再生産をいかに規定するかなどについて,独自のコード理論を展開した。そして,コミュニケーションにおける意味生成・解読原理であるコードの習得が,教育の成否を決めるとした。
解 説
バジル・バーンステインは、限定コードと精密コードの二つの言語コード論を提唱し、中間階級と労働者階級では子供たちの学業達成がなぜ異なるのかについて分析しました。限定コードは、物事を主観的、地位的に述べるコードです。精密コードは、物事を客観的、抽象的、人格的に述べるコードコードです。労働者階級が習得する機会が少ないのは「精密コード」です。これをふまえ、各選択肢を検討します。
選択肢 1 ですが
「経済的地位に応じたパーソナリティ特性を教え,それに基づく選抜を行っている」としたわけではありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
メリット・システムとは、資格や試験成績に基づく公職任命を行うことです。「低所得層への教育投資により経済格差の是正を図るしくみ」ではありません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
著書「ハマータウンの野郎ども」を通じて、労働者階層出身の若者たちが、中流階層に対して抱く反抗的な気分を提示し、社会の中で中心的位置にある学校の学習文化を鮮やかに描き出したのは、ポールウィルスです。バーンスティンについての記述ではありません。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
学級崩壊等の対策の一つとして取られたのが「ゼロ・トレランス」方式です。ゼロ・トレランスは、和訳すると「不寛容」です。細部まで罰則を定め、違反した場合は厳密に処分を行う方式です。「抑圧された状況を変革していく過程をつくり出す」といった意味ではありません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は妥当です。
バーンステインの、独自のコード理論についての記述です。
以上より、正解は 5 です。
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