問 題
国際関係の経済思想と史実に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.自由な市場原理に基づく経済活動こそが発展につながるので国家介入は少ない方が良いという自由放任主義(レッセ・フェール)の考え方は,17 世紀にドイツを中心に興隆した経済思想である。自由な貿易を維持することによって各国の成長が促進されるという自由貿易主義の思想とも結び付いて発展した。
2.「従属理論」の立場によると,国際関係では「北」と「南」の間に搾取関係があり,後発地域が資本主義世界分業の中に組み込まれたことによって,経済面,政治・社会面で重大な影響を受けた。20 世紀後半の脱植民地化によって生まれた新興独立諸国の多くは,「新経済秩序」を唱えて,ヨーロッパ資本の投資を活発化させること,及び国際機関の融資条件を遵守することを強調した。
3.世界恐慌が起こると,従来の資本主義経済の見直しの動きが高まった。主要国は高い関税を導入してブロック経済圏を作って保護貿易を追求した。ドイツや日本のような後発資本主義国家は,植民地帝国らに対して自らを「持たざる国」と主張し,世界市場の再分割を要求して,拡張主義的な軍事行動をとるようになった。
4.冷戦時代に米ソという二つの超大国の間で影響力が低下したヨーロッパでは,ドイツとフランスを中核とする共同市場の設立を目指し,ヨーロッパ域内の地域統合を通じて「規模の経済」の弊害を是正する動きが高まった。欧州経済共同体(EEC)を経て,1993 年に発効したマーストリヒト条約は,欧州連合(EU)の成立を導き出した。
5.第二次世界大戦後に作られた国際的な通貨・貿易制度の安定を図る仕組みは,今日のGATT(関税及び貿易に関する一般協定)体制にも受け継がれている。近年では,さらに FTA(自由貿易協定)や EPA(経済連携協定)の例も増えている。普遍的で無差別な自由貿易を目指す GATT 体制と,特定国間の経済統合を目指す FTA/EPA 体制は,時には相反する要素も見せる関係にある。
解 説
選択肢 1 ですが
レッセフェールとは、フランス語で「なすに任せよ」という意味です。18 世紀に、フランスの重農主義者およびイギリスのアダム=スミスによって主張されました。「17 世紀にドイツを中心に」ではありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
前半部分は妥当です。従属理論についての記述です。後半部分ですが、新経済秩序とは、自国の資源の権利を主張し、「援助よりも公正な貿易の拡大」を実現しようとする考え方です。「ヨーロッパの投資を活発化」や「国際機関の融資条件の遵守」は主張されていません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 は妥当です。
世界恐慌以後の世界の史実についての記述です。
選択肢 4 ですが
EC を経て、マーストリヒト条約で EU 成立という流れです。「欧州経済共同体(EEC)を経て」ではないと考えられます。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 ですが
GATT が発展的に解消されて設立したのが WTO です。加盟国全ての了解が必要であるため、交渉が難航することが多く見られます。そこで、特定国間における FTA/EPA が、WTO 体制の例外として認められており、近年重視されています。FTA/EPA も、目的は自由貿易等の推進であり、「時には相反する要素も見せる」という記述は妥当ではないと考えられます。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 3 です。
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