公務員試験 H28年 国家一般職(行政) No.50解説

 問 題     

動機づけに関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.1920 年代の米国で科学的管理法が急速に普及したことを受けて,動機づけの期待理論の研究が始められた。期待理論の主要な研究として 1930 年代に行われたミシガン研究では,職場の物理的作業条件ではなく,それらの条件変化が従業員に与える人間的意味,特に勤労意欲が従業員の作業能率に影響することが明らかになった。

2.人間の欲求を低次のものから高次のものまで 5 種類に大別し,この順に階層構造を持つとする A.H.マズローの欲求段階説は,後に人間資源アプローチと呼ばれる動機づけ理論の理論的基盤となる。この欲求段階説の妥当性については,D.マグレガーの動機づけ・衛生理論と F.ハーズバーグのX理論・Y理論において,科学的に立証された。

3.E.L.デシが行った内発的動機づけに関する実験の結果,外的報酬は動機づけに対して二つの異なる効果を持つことが明らかになった。このうち,統制的側面としての効果とは,外的報酬が与えられると,活動の目的が外的報酬の獲得にすり替わるため,動機づけを弱めてしまうことであり,もう一方の情報的側面としての効果とは,外的報酬の与え方によっては,報酬の受け手に有能で自己決定的であることが伝わるため,動機づけを強める場合があることである。

4.J.W.アトキンソンの達成動機づけの理論では,成功の誘因価を,成功の主観確率の関数であると仮定し,当該確率が低ければ低いほど誘因価は小さくなり,逆に当該確率が高ければ高いほど誘因価は大きくなるとする。達成動機づけのレベルは誘因価に比例するため,理論的には目標の遂行が困難であればあるほど動機づけのレベルは強くなる。

5.日本企業では,第二次世界大戦後,工員と職員とを区別するなどの身分的資格制度が廃止され,学歴,年齢,勤続年数に応じた処遇を行う職能資格制度が普及した。しかし近年,職務遂行能力に基づいて処遇を行う能力主義の必要性が高まったことを受けて,米国企業で一般的であった役割等級制度や,それを基に日本企業で独自に工夫した職務等級制度が普及しつつある。

 

 

 

 

 

正解 (3)

 解 説     

選択肢 1 ですが
期待理論とは、モチベーション=期待 × 報酬の主観的価値 と考える理論です。(H26no47)。1964 年にブルームにより提唱されました。動機づけに関し、職場の物理的作業条件などについての研究といえば、G. E. メーヨーらが行った「ホーソン実験」です。作業能率・生産性は物理的環境条件や作業方法と一義的に結び付くものではなく、人間関係、監督の在り方、作業者個々人の労働意欲などと密接な関係があることを明らかにしました。(H27no49)。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
マズローの欲求段階説を理論的基盤とした動機づけ理論は、アルダファーの ERG 理論です。E:Existence 存在、R:Relatedness 関係、G:Growth 成長 の頭文字です。マズローの欲求段階は5段階かつ、下から順に生まれると考えましたが、アルダファーは、欲求は同時に生まれることもあるといった修正を加えた上で、欲求を3段階に分類しました。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 は妥当です。
デシの動機づけに関する実験についての記述です。(H26no47)。

選択肢 4 ですが
「理論的には目標遂行が困難であるほど動機づけのレベルは強くなる」とは、「難しいほどやる気でる」ということです。これは納得いかないのではないでしょうか。簡単すぎず、難しすぎないような、適度な成功の主観確率の場合に、動機づけのレベルが高くなると考えられます。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
前半部分は妥当です。後半部分ですが、米国企業で一般的であったのは、いわゆるジョブ型と呼ばれる「職務等級制度」です。日本独自の制度が、ミッショングレード制とも呼ばれる「役割等級制度」です。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 3 です。

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