公務員試験 H26年 国家一般職(行政) No.51解説

 問 題     

国際政治学におけるリアリズム (現実主義) とリベラリズム (理想主義、自由主義、国際協調主義) に関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。

1. 第一次世界大戦後、ウェールズ大学アベリストウィス校 (現在のアベリストウィス大学) に国際政治学部が創られた。その創設者 D.デーヴィスは、国際連盟への理解を深めるため、同学部に「ウッドロー・ウィルソン講座」を設けた。その講座の初代教授に就任した A.ジマーンは、国際法や国際機関の改善による主権国家体制の平和的組織化を説き、1936 年に『国際連盟と法の支配』を著した。

2. 1936 年に「ウッドロー・ウィルソン講座」の第4代教授に就任した E.H.カーは、1939 年に『危機の 20 年』を著して、ジマーンなどの立場をユートピア (空想主義) と評するリアリストを批判して、国際連盟の機能を回復させることこそが、第二次世界大戦を防ぐ最重要な方法であると主張した。しかし同著書の出版直後、ドイツはポーランド侵攻を開始した。

3. 1948 年に H.モーゲンソーはリアリズムの立場から『国際政治』を著して、第二次世界大戦後のアメリカ国際政治学界に大きな影響を及ぼした。モーゲンソーは、国際政治を「力と平和をめぐる闘争」と表現して、リベラルが重視する理念や規範よりも力の重要性を強調した。このような観点からモーゲンソーは、1970 年代に入っても米国がベトナム戦争を続行することを主張して,H.キッシンジャーが主導する外交政策を宥(ゆう)和的だと批判した。

4. 1980 年代のアメリカ国際政治学界では、K.ウォルツのネオ・リアリズムと R.コヘインのネオ・リベラリズムとの論争が展開された。前者は、行為主体がアナーキーな国際関係の基本構造や国際制度の下で枠をはめられ、常に方向付けられると主張して、ラショナリズム (合理的選択論) の観点をとった。それに対して後者は、実際に行為主体がどのような考えや認識を持って行動しているかを探るべきだと主張して、コンストラクティヴィズム (構成主義) の観点をとった。

5. M.ドイルや B.ラセットによる民主的平和論は、国内政治体制の民主化、国家間の経済的相互依存の進展、そして国際社会の組織化によって国家間戦争の頻度が低下する、と主張するリベラルの安全保障論の流れに属する理論であるといえる。しかし、ラセットは 2003 年のイラク戦争のような権威主義的政治体制を打倒するための武力行使を肯定しており、リアリズムの流れに属するともいえる。

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

選択肢 1 は妥当です。
ウェールズ大学アベリストウィス校の創設者 D.デーヴィスと、講座初代教授 A.ジマーンについての記述です。

選択肢 2 ですが
E.H.カーは、国際法や国際機関ではなく、国家間の権力関係を分析の中心に据えることを提唱しました。「国際連盟の機能を回復させること」を主張したわけではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
モーゲンソーはリアリズムの観点から、米国のベトナム戦争に関して、バランスオブパワーを崩す行為と考え、国益の観点から批判しました。「続行することを主張」したわけではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
ウォルツとコヘインの論争に対し、コンストラクティビズムの観点から批判的に論を展開したのはウェントです。「後者(コヘイン)が、コンストラクティビズムの観点をとった」わけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
前半部分は妥当です。後半部分ですが、2003 年のイラク戦争は「権威主義的政治体制を打破するための武力行使」ではありません。また、ラセットは民主主義を押し付けるような武力行使を肯定してはいません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

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