問 題
企業の戦略に関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。
1. ポジショニング戦略論が提唱する戦略策定プロセスは、産業構造の分析と企業が保有する資源の分析の二つで構成される。産業構造分析のフレームワークは、新規参入の脅威、労働組合の交渉力など五つの競争要因を分析するファイブ・フォース・モデルで、D.A.アーカーによって構築された。一方、保有資源の分析フレームワークは、資源の価値や希少性などを分析する VRIO フレームワークで、M.E.ポーターによって構築された。
2. 垂直統合とは、加工・組立メーカーが原材料・部品の調達先である原材料・部品メーカーや製品の出荷先である小売・販売業者を買収するなど、売買取引関係にある他企業の業務を取り込んで、企業が事業領域を拡大することである。垂直統合を行うことにより、原材料や部品の標準化を通じて生産効率などが向上するのでコスト削減が可能となり、また技術的な機密情報やノウハウの漏洩を防止することも可能となる。
3. 小売業などの企業が、出店地域を限定して特定の地域に集中的に出店・立地を行う戦略はドミナント化と呼ばれ、M.E.ポーターが唱えた競争戦略の三つの基本類型のうちでは差別化戦略に分類される。ドミナント化は、特定地域内で商圏を拡大することによる規模の経済性と、複数の商圏を結合することによる範囲の経済性を同時に追求することでコスト低下を実現する戦略であるが、物流コストに関しては効率化されないという弱点を持つ。
4. 差別化戦略の成功には、顧客価値の向上、規模の経済性、模倣困難性の三要素が必須であるとされている。このうち、顧客価値の向上とは、原材料や部品などの生産要素を安価に調達し、大量生産による規模の経済性を実現してコストを低下させることである。また、模倣困難性を高めるためには、複数製品間で経営資源を共有して範囲の経済性を実現し、製造工程における作業を標準化することが必須条件となる。
5. 米国で 1960 年代に発生した M&A ブームにより、水平的多角化を推し進めることによって巨大化したコングロマリットと呼ばれる企業が誕生した。コングロマリットの抱える膨大な事業を整理、統合し、管理するための手法として、R.バーノンは自らが構築したプロダクトサイクル仮説と、製品を生産するほどコストが下がるという生産コストに関する経験則とを組み合わせて,プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)を開発した。
解 説
選択肢 1 ですが
ファイブ・フォース・モデルの提唱者は、M.E.ポーターです。VRIO フレームワークの提唱者は、ジェイ・B・バーニーです。それぞれのフレームワークの内容は妥当ですが、提唱者との対応が妥当ではありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 は妥当です。
垂直統合についての記述です。
選択肢 3 ですが
M.E.ポーターが唱えた 3 つの競争戦略の基本類型とは、「コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略」です。この中で、特定地域に集中的に出店・立地を行うドミナント化は「集中戦略」に分類されます。「差別化戦略」ではありません。また、ドミナント化により、物流コストは効率化されます。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
「顧客価値の向上」が「コスト低下」というのはおかしいと判断できるのではないでしょうか。また、模倣困難性を高めるのであれば、複数製品間で異なる製品である方が模倣困難であると考えられます。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 ですが
プロダクト・ポートフォリオ・マネージメントは、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が1970年代に開発した、どの事業領域に自社経営資源を分配すべきか判断するためのフレームワークです。縦軸と横軸に「市場成長率」と「市場占有率」を設定し、4つに事業領域を分類します。バーノンを中心として提唱された理論は「プロダクト・サイクル理論」です。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 2 です。
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