公務員試験 H26年 国家一般職(行政) No.36解説

 問 題     

縦軸に利子率、横軸に国民所得をとった IS-LM 分析に関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。

1. 流動性のわなに陥っている経済では、財政政策は有効であるが、乗数効果が常に働かず、増加させた政府支出の規模の大きさだけしか、国民所得は増加しない。

2. 貨幣需要が利子率に対して無限に弾力的である場合、政府による公共投資を行っても民間投資を完全にクラウディングアウトしてしまう。

3. 流動性のわなに陥っているとき、減税をした場合には国民所得を増加させることができるが、そのとき金利も低下して、民間投資も増加している。

4. 投資が利子率に対して無限に弾力的である場合、金融政策は無効となるため、有効な経済政策としては、財政政策のみとなる。

5. 右下がりの IS 曲線の左下の領域では、財市場において超過需要が生じており、右上がりの LM 曲線の左上の領域では、貨幣市場において超過供給が生じている。

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

選択肢 1~3 に関して
「流動性のわな」とは、貨幣市場において金利が一定水準以下となり、貨幣需要の利子弾力性が無限大となる状態です。この状態においては、金利が動いても、貨幣と債権について貨幣しか選択されません。また、ISーLM分析における LM 曲線が水平となります。これをふまえて、各選択肢を検討します。

選択肢 1 ですが
乗数効果とは、例えば Y = C + I + G という関係において、I や G といった「ある経済量の変化」の結果、他の経済量の変化も誘発し、「結果として変化量の何倍も Y が増加する」といった効果のことです。流動性のわなに陥っているからといって「常に働かない」わけではありません。従って、選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2,3 ですが
政府による公共投資や減税といった財政政策は、IS 曲線を右にシフトします。結果、国民所得 Y は増加します。流動性のわなに陥っている場合、LM曲線が水平であるため、下図のように利子率は変わりません。

従って、「財政政策→利子率増加→投資減少」という流れである「クラウディングアウト」は生じません。選択肢 2 は誤りです。

流動性のわなに陥っている時、減税をおこなった場合も、減税と同様に国民所得は増加し、また、利子率は変わりません。「そのとき金利も低下する」わけではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
「投資が利子率に対して無限に弾力的」な場合、IS – LM 分析における IS 曲線が水平となります。この時、財政政策によって IS 曲線を 右にシフトしても意味がないと考えられます。「有効な経済政策としては、財政政策のみとなる」わけではありません。選択肢 4 は誤りです。

ちなみにこの場合「財政政策は無効」となり、有効な経済政策は「金融政策」です。LM 曲線を 下に動かすことで国民所得が大きくなります。下図のようになります。利子率は変わりません。

選択肢 5 は妥当です。
IS 曲線(右下がり)の左下の領域とは、例えば均衡点を結んでいった時、(10,15),(20,5)… を結ぶ直線( r = ーY + 25)  だったとして、(5,5) といった点が、左下の領域の一例です。Y が 5 の時、均衡点であれば (5,20) です。従って、Y、すなわち国民所得=国民生産が、利子率に比べて「小さい」領域です。生産が少ないのだから、需要が超過で OK です。また、LM 曲線(右上がり)の左上の領域とは、利子率が高すぎる領域です。利子が高ければ貨幣需要が低いのだから、超過供給で OK です。

以上より、正解は 5 です。

コメント