問 題
債務不履行と不法行為との差異に関するア~オの記述のうち、妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
ア. 債務不履行にあっては、債権者が債務者の帰責事由を立証する必要はなく、債務者は自己に帰責事由がなかったことを立証しない限り、債務不履行の責任を免れない。他方、不法行為にあっては、被害者である債権者は、加害者である債務者の故意又は過失を立証しない限り、損害賠償を請求することができない。
イ. 債務不履行にあっては、損害賠償請求権の消滅時効期間は 10 年であるが、不法行為にあっては、損害賠償請求権の消滅時効期間は 20 年である。
ウ. 債務不履行にあっては、損害賠償債務は期限の定めのない債務であり、債権者から履行の請求を受けた時に期限が到来する。他方、不法行為にあっては、損害賠償債務は不法行為と同時に期限が到来する。
エ. 債務不履行にあっては、債務不履行に基づく損害賠償請求権を受働債権とする相殺は禁じられていないが、不法行為にあっては、不法行為に基づく損害賠償請求権を受働債権とする相殺は禁じられている。
オ. 債務不履行にあっては、債務者は、履行補助者の故意又は過失について、履行補助者の選任及び監督について過失がなければ免責される。他方、不法行為にあっては、使用者は、被用者が事業の執行について第三者に加えた損害について、被用者の選任及び監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは免責される。
1. ア、イ
2. ウ、オ
3. ア、ウ、エ
4. イ、エ、オ
5. ウ、エ、オ
解 説
記述 ア は妥当です。
債務不履行と不法行為における大きな違いの1つが立証責任です。債務不履行では、債務者に立証責任があります。不法行為では、被害者が加害者の故意・過失について立証責任があります。
改正影響ポイント!
記述 イ ですが
債務不履行の損害賠償請求権について消滅時効は、主観的起算点から 5 年、履行期から 10 年(ただし、人身傷害に基づく場合 20 年)です。また、不法行為については、行為時から 20 年、もしくは損害・加害者を知った時から 3 年(ただし、人身傷害の場合は 5 年)です。記述 イ は妥当ではありません。
記述 ウ は妥当です。
債務不履行に基づく損害賠償債務は期限の定めのない債務です。不法行為に基づく損害賠償債務は損害発生と同時に期限が到来し、履行遅滞となります。
改正影響ポイント!
記述 エ は、出題時において妥当です。
改正民法第 509 条(不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。) となりました。このため、債務不履行に基づくとしても、人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務に関しては相殺が禁じられます。また、不法行為に基づくとしても、全面禁止ではなく、悪意の場合のみ禁止となっています。
改正影響ポイント!
記述 オ ですが
出題時において、債務不履行について、債務者自身の故意・過失だけでなく、信義則上これと同視すべきものとして、履行補助者の故意・過失が含まれます。「履行補助者の過失理論」と呼ばれます。従って、履行補助者の選任及び監督について過失がなくても責任を負います。
ちなみに、改正後民法第 415 条 1 項が「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」です。
この改正により、履行補助者についても、故意・過失の有無ではなく、もともとの契約等がどのようなものであったか、社会通念に照らして考えることで判断する、と明文化されたことになります。
以上より、正解は 3 です。
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