問 題
参政権に関する ア~オ の記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。
ア.憲法第 15 条の規定は,国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない在外国民の選挙権を保障するものではないから,在外国民に衆参両議院の比例代表選出議員の選挙についてだけ投票を認め,衆議院小選挙区及び参議院選挙区選出議員の選挙については投票を認めないこととしても,違憲ということはできない。
イ.憲法は,国会の両議院の議員を選挙する制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,憲法上,選挙制度の決定のための唯一,絶対の基準となるものではなく,原則として,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。
ウ.政治上の表現の自由は民主政治の根幹を成すものであって,政見放送の事前抑制は認められないから,政見放送において,その使用が社会的に許容されないことが広く認識されているいわゆる差別用語を使用した部分が公職選挙法の規定に違反するとして,当該部分の音声を削除して放送することは,憲法第 21 条に違反する。
エ.戸別訪問の禁止は,意見表明そのものの制約を目的とするものではなく,意見表明の手段方法のもたらす弊害を防止して,選挙の自由と公正を確保することを目的としているところ,その目的は正当であり,戸別訪問を一律に禁止することと禁止目的との間には合理的な関連性がある。また,選挙の自由と公正の確保という戸別訪問の禁止によって得られる利益は失われる利益に比してはるかに大きいといえるから,戸別訪問を一律に禁止している公職選挙法の規定は,憲法第 21 条に違反しない。
オ.公職選挙法が,同法所定の組織的選挙運動管理者等が買収等の所定の選挙犯罪を犯し禁錮以上の刑に処せられた場合に,公職の候補者であった者の当選を無効とし,かつ,これらの者が一定期間当該選挙に係る選挙区において行われる当該公職に係る選挙に立候補することを禁止する旨を定めていることは,いわゆる連座の対象者の範囲を必要以上に拡大し,公明かつ適正な公職選挙の実現という立法目的を達成するための手段として妥当性を欠いており,憲法第 15 条に違反する。
1.ア,ウ
2.ア,エ
3.イ,エ
4.イ,オ
5.ウ,オ
解 説
記述 ア ですが
在外国民選挙権制限違憲訴訟判決(最判 H17.9.14) によれば、「比例代表選出議員の選挙についてだけ投票を認め,衆議院小選挙区及び参議院選挙区選出議員の選挙については投票を認めないことに、やむをえないと認められる事由はなく、違憲」です。記述 ア は誤りです。
記述 イ は妥当です。
衆議院議員定数不均衡訴訟判決(最判 S51.4.14) の内容です。
記述 ウ ですが
政見放送削除事件判決(最判 H2.4.17) によれば、差別用語を使用した部分がそのまま放送される利益は法益といえないという理論づけにより、不法行為にあたらず、また、違憲という主張も実質が法令違背にすぎません。従って、削除して放送することが違憲ということはありません。この判例を知らなかったとしても、差別用語も含めてなんでも政見放送で言ってよく、かつ、それをそのまま放送しないと違憲という論理は、妥当ではないと感じるのではないでしょうか。記述 ウ は誤りです。
記述 エ は妥当です。
戸別訪問禁止合憲判決(最判 S56.6.15) の内容です。
記述 オ ですが
連座制の合憲性判決(最判 H9.3.13) によれば、立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものというべきとされています。違憲ではありません。記述 オ は誤りです。
以上より、正解は 3 です。
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