公務員試験 2020年 国家一般職(行政) No.58解説

 問 題     

宗教や文化に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.M.ヴェーバーは,中世の東洋において,近代資本主義の精神が生み出されたのは,仏教における輪廻転生の思想により,来世の幸福のために現世において職業に励み,全面的に規律化した生活態度を保持することが徹底されたためと考えた。

2.É.デュルケムは,自殺率は個人の所属する集団の統合度の強さに反比例すると考えた。例えば,宗教生活と自殺との関係について,カトリックとプロテスタントを比較し,宗派によって異なる集団の統合度が,自殺率に影響していると分析した。

3.T.ルックマンは,現代社会における宗教の変動を考察し,世俗化に伴って宗教は衰退してしまった結果,教会志向型の組織化された宗教だけでなく,個人の内面においても宗教意識は見られなくなったとして,それを「見えない宗教」と呼んだ。

4.中根千枝は,日本の文化は,根底に共通して存在している宗教思想から派生し発展していると論じ,その文化の型を「ササラ型」と表現した。一方,西欧の文化は分野ごとに独立して没交渉であるとして「タコツボ型」と名付けた。

5.R.ベネディクトは,西欧の文化は,集団の和合を重んじ,他者からどのように見られるかを重視する「恥の文化」であるのに対し,日本の文化は,仏教の倫理観に基づく個人の良心を重視する「罪の文化」であると論じた。

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

選択肢 1 ですが
M.ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』によれば、プロテスタントの世俗内禁欲が、資本主義の精神に適合性を持っていたとされています。「仏教における輪廻転生の思想」に注目してはいません。また、中世の「西欧」の話です。「東洋」ではありません。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 は妥当です。
É.デュルケムは,『自殺論』において、カトリックとプロテスタントの自殺率を比較した結果,前者よりも後者の方が自殺率が高いことを明らかにし,それは,後者は信者が聖書を自由に解釈することを認めていることから,集団の統合度が弱まるためであるとしました。

選択肢 3 ですが
ルックマン が提唱した「見えない宗教」とは、個人の中に内面化された「宗教」です。具体的には、多様な要素を自主的に選択しまとめたものであり、自らの思想や行動の無自覚的基盤となっているものが「見えない宗教」です。「個人の内面においても宗教意識は見られなくなった」と考えたわけではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
西欧と日本が逆です。日本の文化の型が「タコツボ型」、西欧の文化の型が「ササラ型」と、丸山眞男が『日本の思想』で指摘しました。中根千枝は社会人類学者です。「場」を強調し「ウチ」「ソト」を強く意識する日本的社会構造を指摘しました。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
西欧と日本が逆です。アメリカの文化人類学者 R.ベネディクト『菊と刀』において用いた文化類型が「恥の文化」、「罪の文化」です。日本が恥の文化、西欧が罪の文化に対応します。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

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