公務員試験 2019年 国家一般職(行政) No.2解説

 問 題     

ネイションとナショナリズムに関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.E.ルナンは,ネイションの形成に関して,言語,慣習,宗教といった,客観的とみなされる固有の文化的属性に専ら着目する立場をとった。そして,ネイションは政治共同体の構成員の選択と同意によって作られる,とする考え方を批判した。

2.E.ゲルナーは,ナショナリズムを「政治的な単位と文化的な単位の一致を求める政治原理」と定義した。その上で,産業化によって均質な労働力が大量に必要とされ,社会の中で平準化が進み,人々はネイションへの帰属意識を持つようになったと主張した。

3.B.アンダーソンは,ネイションとは,あくまで相互に直接対面可能な範囲で居住する他者との間でのみ成立するものであるとした。そして,新聞・書籍等の印刷物が普及して以降は,「想像の共同体」としてネイションが作られることはないと主張した。

4.E.ホブスボームは,ネイションの伝統は,古代から自然発生的に存在していたものを基礎とするのであり,国家によって新たに発明される性質のものではないとした。その上で,人々は捏造された政治的シンボルを伝統として引き継ぐことはないとした。

5.A.スミスは,ネイションとは,工業化や産業の発展等によって近代に構築されたエスニックな共同体である「エトニー(エスニー)」を基礎としているとした。そして,このエトニーは,祖先に関する神話,同質的な文化等の前近代の伝統と関わりなく確立したと主張した。

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

選択肢 1 ですが
記述はフィヒテの定義です。ルナンは、フィヒテのネイション概念とは異なり、政治共同体の構成員の選択と同意によって作られると考えました。「国民の存在は…日々の国民投票なのです」という言葉が有名です。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 は妥当です。
ゲルナーは、「民族とナショナリズム」の著者です。産業社会の勃興と国民形成の関連性を指摘しました。

選択肢 3 ですが
想像された共同体 としての「ネーション」の起源について考察したのは、B.アンダーソンです。出版技術の普及なしに「想像された共同体」としてのネーションの誕生はなかったと指摘しました。(H28no56)。「新聞・書籍等の印刷物が普及して以降は・・・ネイションが作られることはないと主張した」わけではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
ホブスボームは、伝統だと考えているものの多くは,主として 19 世紀以降に,選挙制民主主義の普及による大衆政治の出現という状況の下で,国民的な文化統合を図ろうとして人為的に作り出されたものであることを「創られた伝統」として指摘しました。「国家によって新たに発明される性質のものではないとした」わけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
A.スミスは、近代以前から存在する文化的共同体である「エトニー(エスニー)」と、国民(ネイション)や伝統概念との連続性を重視する立場をとっています。「近代に構築された・・・「エトニー(エスニー)」を基礎としている」と考えたわけではありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

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