電験三種 H30年 電力 問14 問題と解説

 問 題     

変圧器に使用される鉄心材料に関する記述として、誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

  1. 鉄は、炭素の含有量を低減させることにより飽和磁束密度及び透磁率が増加し、保磁力が減少する傾向があるが、純鉄や低炭素鋼は電気抵抗が小さいため、一般に交流用途の鉄心材料には適さない。
  2. 鉄は、けい素含有量の増加に伴って飽和磁束密度及び保磁力が減少し、透磁率及び電気抵抗が増加する傾向がある。そのため、けい素鋼板は交流用途の鉄心材料に広く使用されているが、けい素含有量の増加に伴って加工性や機械的強度が低下するという性質もある。
  3. 鉄心材料のヒステリシス損は、ヒステリシス曲線が囲む面積と交番磁界の周波数に比例する。
  4. 厚さの薄い鉄心材料を積層した積層鉄心は、積層した鉄心材料間で電流が流れないように鉄心材料の表面に絶縁被膜が施されており、鉄心材料の積層方向(厚さ方向)と磁束方向とが同一方向となるときに顕著な渦電流損の低減効果が得られる。
  5. 鉄心材料に用いられるアモルファス磁性材料は、原子配列に規則性がない非結晶構造を有し、結晶構造を有するけい素鋼材と比較して鉄損が少ない。薄帯形状であることから巻鉄心形の鉄心に適しており、柱上変圧器などに使用されている。

 

 

 

 

 

正解 (4)

 解 説    

積層鉄心とは、絶縁被膜が施された薄い鉄板を層状に積み重ねて構成した鉄心のことです。鉄部分&絶縁部分が、ミルクレープのクリーム&クレープのようになっているのをイメージしてください。

ただの鉄の塊を鉄心とするのではなくこのような積層鉄心を用いるのは、この構造を取ることで変圧器の電力損失となる渦電流損を低減させることができるためです。

よって、(4)の前半部分は正しいのですが、後半部分の「積層方向と磁束方向とが同一方向」という箇所が誤っています。「同一方向」ではなく、正しくは「垂直方向」となります。

というのも、渦電流は電磁誘導の原理によって発生するので、磁束の周囲に円を描くように流れます。ここで、積層鉄心と磁束と渦電流とを重ねて描くと以下のようになります。

※ 電流の回転方向については今はあまり気にしないでください。電磁誘導は磁束の変化によって起こるため、磁束が増加中か減少中かによって時計回り・反時計回りが変わります。ちなみに、磁束が変わらない間は渦電流は流れません。

上図左側は、上下方向に鉄板を重ねていて磁束も上下に走っているので、積層方向と磁束方向が同一といえます。この状態で渦電流が生じても、渦電流はうまく鉄板の上を滑ることができるので、これでは渦電流損を低減が期待できません。

一方、上図右側のように積層方向と磁束方向とが垂直になった場合を考えてください。このとき、赤矢印で示したのが渦電流を示していますが、絶縁被膜の層を何度も何度も通らないと円を描くことができません。しかし、実際には絶縁被膜に電流は流れないので、この渦電流はそもそも成立しないことになります。

よって、このように積層方向と磁束方向とが垂直方向になれば、渦電流損の低減効果が顕著に見られることになります。

以上から、(4)の「同一」を「垂直」に直すべきなので、正解は(4)です。

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