この項では、水車発電機が事故などによって急に停止した際の安全対策について扱います。以下の4つが、この項のキーワードとなります。
- 水撃作用
- 負荷遮断試験
- 速度変動率
- 水圧変動率
水車発電機が正常に動いているときには発電機に負荷が掛かっていますが、何かしらのトラブルで負荷が遮断されると、水車は突然軽くなります。一方、水車には一定量の水が入り続けるので、このままでは水車の回転数が上がりすぎてしまい、故障につながります。
そこで、このようなトラブル時には水車へとつながる水管の弁を閉じ、水車へと流れる水量を減らすことで、水車の異常回転を抑える仕組みとなっています。しかし、弁を閉じると水管内の水の運動エネルギーが圧力エネルギーに変わるため、水管内の圧力上昇が起こります。この現象が「水撃作用」です。
「負荷遮断試験」とは、水車発電機が完成したときにおこなう試験のことで、上記のように負荷を急に遮断してみて、水車の回転速度が異常に上がり過ぎないか、水撃作用で水管の圧力が異常に上がり過ぎないかを確認します。普通は、最初に定格出力の1/4の負荷を掛けて試験をし、問題がなければ2/4、3/4、4/4(定格出力)の順番で試していきます。
このような状況では水車の回転数と水管内の圧力がどのように変動したかを示す指標が必要となりますが、それが「速度変動率」と「水圧変動率」です。速度変動率は、回転数の変化量と定格回転速度との比で表されます。水圧変動率は、水圧の変化量と落差との比で表されます。
速度変動率を下げる方法は主に2つあります。
ひとつは水口閉鎖時間を短くすることです。つまり、負荷遮断によって水車が軽くなっているところに多量の水が流れ込んでくることが回転速度上昇の原因なので、流入水を絶ってしまえば良い、という考え方です。しかし、そうすると当然、水撃作用により水圧変動率は上昇してしまいます。
もうひとつの方法は、水車発電機のはずみ車効果を大きくすることです。この効果を大きくすればするほど費用がかさむことになるので、こちらもバランスが大切です。
次に、水圧変動率を下げる方法を3つ紹介します。
ひとつは、サージタンクを設けることです。サージタンクは水力発電所の概要のページでも紹介しましたが、これがあると圧力を逃がすことができます。
もうひとつは、水管の断面積を大きくすることです。水管の断面積が大きくなれば、同じ流量でも水の流速が下がるため、水撃作用も弱くなります。
最後のひとつは、水管の長さを短くすることです。今は水圧が上がることを問題としていますが、水管の長さが長ければ長いほど、その水圧は上がります。なので、水管を短くすればよいという考え方です。
以上のとおり、速度変動率と水圧変動率は、一方を改善しようとすると他方に悪影響を及ぼします。そのため、両者のバランスを考えながら水力発電所の設備設計を整えることが重要です。
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