原子炉の構成材料

本項と次項では原子力発電について解説をしていきます。本項ではまず、原子力発電の概要から入り、その後、原子炉の構成要素とその役割を説明していきます。

原子力発電とは、核燃料が中性子を吸収して核分裂を起こし、その際に発生するエネルギーと取り出すという発電方法です。核分裂ではエネルギーとともに中性子も発生するので、この中性子が次の核燃料を核分裂させる役割をするため、連鎖反応を起こします。

つまり、核分裂というのは最初のひと押しさえ手を加えれば、どんどん連鎖反応が進み、簡単に起動や停止を繰り返せるものではありません。そのため、電力需要の少ない夜間などに過剰なエネルギーを作ってしまうため、揚水発電という工夫がなされます(揚水発電についてはこちらのページ参照)。

核分裂を起こす設備を原子炉といいますが、この原子炉を構成するものの名称と役割を理解することが原子力発電の範囲では重要です。

原子炉の構成要素は以下の通りです。

  1. 核燃料
  2. 減速材
  3. 反射材
  4. 冷却材
  5. 制御材
  6. 遮へい材
  7. 構造材

核燃料

核燃料は原子炉の中のもっとも重要な要素です。その原料はウランかプルトニウムですが、軽水炉ではウランが使われ、高速増殖炉ではプルトニウムが使われます。現在世界で稼動しているほとんどの原子炉は前者の軽水炉です。

ウランというのは鉱山から採取したときはほとんどウラン238で、0.7%程度だけウラン235を含んでいます。これを天然ウランといいます。核分裂に使えるのはウラン235なので、天然ウランをそのまま原子力発電に使うことができません。

原子力発電に用いられるのは濃縮ウラン(ウラン235の割合が3~5%くらい)です。濃縮ウランは文字どおり天然ウランを濃縮したものですが、これはウラン238とウラン235の質量差を利用した遠心分離を用います。こうして得られた濃縮ウランを二酸化ウランの状態でペレット状に固めたものが核燃料となります。

一方のプルトニウムはプルトニウム239が核燃料となります。これは天然には存在しないため、天然プルトニウムを濃縮しても仕方がありません。プルトニウム239を得るためには、ウラン238に中性子を吸収させる必要があります。

減速材

上記のとおり、核分裂により出てきた中性子が次の核分裂を起こし連鎖反応と成ります。しかし、発生した中性子はこのままだと速度が速すぎてうまく次の核分裂が起こりづらいです。そこで、減速材を用いて中性子の速度を減速させ、連鎖反応を起きやすくさせます。

ここから減速材の特徴に入りますが、ここの理解が重要です。

まず、減速材は放射線や熱に安定でなくてはなりません(弱いと原子炉内で壊れてしまうから)。また、中性子を吸収しにくい性質である必要があります(あくまで減速するだけで、失ってはいけないので)。さらに、質量の小さいものが良いです(減速効果が大きくなります)。

これらの条件から、減速材には軽水や重水、黒鉛やベリリウムが用いられます。

ちなみに、高速増殖炉のように中性子を減速させないでいい炉では、減速材は使いません。このような例外はありますが、ほとんどの原子炉では減速材を使います。

反射材

中性子が原子炉の外へ漏れることを防止するのが反射材です。炉心の壁にこの反射材を張っておくのですが、その材料や役割は減速材と同じです。軽水のような液体の減速材を用いるときは、もはや減速材・反射材の区別もありません。

冷却材

冷却材とは名前のとおり原子炉内の冷やすものですが、その目的は冷却というより熱交換と呼ぶほうが正確です。つまり、原子炉内で発生した熱をこの冷却材が受け取り、炉外でその熱を電気に変えます。

この冷却材に必要な性質は、減速材と同じように放射線や熱に安定なこと、中性子を吸収しにくいことが挙げられます。冷却材は熱媒体の役割をするので、これらに加えて、熱伝導率が良い物質とします。

これらを加味すると、冷却材は軽水、重水、液体ナトリウム、ヘリウム、炭酸ガスなどが適しています。

制御材

制御材は核分裂の連鎖反応を緩めたり止めたりします。つまり、炉の出力を下げたり炉を立ち下げたりする際の制御に用います。制御材は普通、棒状のもので、炉に差し込めば核分裂を抑え、引き抜けば核分裂が進行します。

制御材の特徴は、やはり放射線や熱に強いことです。また、減速材などとは異なり、核分裂の勢いを弱めるために中性子の吸収が大きいものを選びます。

制御材の具体例としては、ホウ素化合物、カドミウム、ハフニウムが挙げられます。

遮へい材

反射材の外側にあるのが遮へい材です。反射材と同じく放射線が外へ漏れるのを防ぐ役割をしていますが、反射材とは仕組みが異なります。

反射材が核分裂の勢いを落とさずに(むしろ上げながら)漏れを防ぐのに対し、より外側にある遮へい材は、放射線や熱をよく吸収する材料を用いてとにかく漏れを封じます。また、温度上昇を防ぐために熱伝導の良いものを選ぶ必要があります。

鉛やコンクリートなどが材料として適しています。

構造材

構造材は原子炉自体の構造材料です。放射線や熱に安定で、中性子を吸収しにくいものが適しています。また、温度上昇を防ぐために熱伝導の良いものを選びます。

これに適した例として、ステンレス、アルミニウム、鉄が挙げられます。

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