直流送電

前項までで送電に関する主だった事項を説明していますが、これらは基本的に交流送電について考えていました。それは送電の際のコストや安全性など、様々な要因を考えた結果なのですが、一方で直流送電のほうが良い場合もあります。

この項では、直流送電について、交流送電との違いや使い分けについて紹介します。

直流送電のメリット

直流送電のメリットとして、まず、絶縁の容易さが挙げられます。交流送電の場合は最高電圧が実効電圧の√2倍になりますが、直流送電なら最高電圧も実効電圧も変わりません。よって、実効電圧が変わらない場合は、直流送電のほうが最高電圧が低くなるため、絶縁が相対的に簡単です。

また、交流送電の場合は3線使うのが普通ですが、直流送電なら2線なので、絶縁のためのコストなども少なくて済みます。

次に、直流送電は電圧降下や線路損失が小さいです。電圧降下についての解説は三相3線式送電線の電圧降下のページを、線路損失についての解説は三相3線式送電線の送電電力・線路損失のページを参照してください。

交流送電のときにはこれらの問題が無視できませんが、直流送電では無効電力がないため、リアクタンスによる電圧降下がありません。また、導体利用率が交流送電よりも高いので、電力の損失をかなり小さく抑えられます。

フェランチ効果が起こらないのもメリットです。フェランチ効果についての解説はフェランチ効果のページを参照してください。無効電力がないためにリアクタンスによる電圧降下がないのと同様、静電容量による電圧上昇(=フェランチ効果)もありません。

さらに、直流送電では、異周波数の連系非同期連系が比較的簡単にできます。異なる周波数の交流をつなげようとすると同期運転が必要ですが、間に直流を挟むことにより、同期運転がいらなくなります。

また、直流送電では充電電流が生じないので、これが大きくなって問題になりやすい海底ケーブル送電に向いています。

最後に、送電のためのケーブルが安いことが挙げられます。ケーブルが安いということはそれだけ建設費が少なくて済むということなので、事業としては重要な要素です。ただし、後述の通り、直流送電の際はどこかで交流との変換を行わなければならず、その変換のための設備は高価です。

よって、長距離の送電であれば交直交換設備を設置してもなお、ケーブルのコストが安いためメリットになりますが、短距離の送電であると安価なケーブルというメリットをあまり享受できないので、そこはバランスの問題になります。

直流送電のデメリット

直流送電のデメリットと考えられるのは、まずは、簡単には変圧できないことです。電圧は需要場所によって様々ですが、これを上げ下げするのは交流の得意とするところです。

また、交直交換設備の設置が必要なのもデメリットとして挙げられます。交直交換設備は値段が高いので、これを使わずに済む交流で済むなら、そのほうが経済的です。ただし、前述の通り、ケーブルは直流のほうが安いので、送電距離によっては交直交換設備を置いてでも直流にするメリットがあります。

直流送電では電流の遮断が難しいというのも問題になります。遮断器はトラブル発生時に事故点の周囲の電流を遮断することで、正常な部分に悪影響を及ぼすのを防ぐ役割を果たします。遮断器についての解説は開閉装置(遮断器・断路器)のページを参照してください。

交流の場合は周期的に電流がプラスになったりマイナスになったり常に変化しているため、ちょうど0になるところを狙って遮断することで、あまり負荷を掛けずに遮断することが可能です。

しかし、直流の場合は常に一定の電流が流れ続けているので、その状態で遮断するのは負荷が大きすぎて難しいです。そのため、電流が小さめなら使える直流遮断器も当然ありますが、大きな電流の直流送電に対応できる遮断器は少ないです。

直流送電の使用例

以上より、直流送電を積極的に採用するシーンは限られます。代表例として、以下の4つを覚えておけば良いと思います。

  • 海底ケーブル送電
  • 長距離送電
  • 異周波数の連系
  • 非同期連系

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