電験三種 R4年度下期 電力 問4 問題と解説

 問 題     

次の文章は、原子炉の型と特性に関する記述である。

軽水炉は、( ア )を原子燃料とし、冷却材と( イ )に軽水を用いた原子炉であり、我が国の商用原子力発電所に広く用いられている。この軽水炉には、蒸気を原子炉の中で直接発生する( ウ )原子炉と蒸気発生器を介して蒸気を作る( エ )原子炉とがある。

軽水炉では、何らかの原因により原子炉の核分裂反応による熱出力が増加して、炉内温度が上昇した場合でも、燃料の温度上昇にともなってウラン238による中性子の吸収が増加する( オ )により、出力が抑制される。このような働きを原子炉の固有の安全性という。

上記の記述中の空白箇所(ア)~(オ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

  •   (ア)     (イ)   (ウ)    (エ)     (オ)
  1. 低濃縮ウラン  減速材  沸騰水型  加圧水型  ドップラー効果
  2. 高濃縮ウラン  減速材  沸騰水型  加圧水型  ボイド効果
  3. プルトニウム  加速材  加圧水型  沸騰水型  ボイド効果
  4. 低濃縮ウラン  減速材  加圧水型  沸騰水型  ボイド効果
  5. 高濃縮ウラン  加速材  沸騰水型  加圧水型  ドップラー効果

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説    

本問では( ア )~( エ )は基本的かつ頻出テーマなので、必ず押さえておきたい知識です。一方で、( オ )に関してはややマイナーな知識ですが、( ア )~( エ )を正しく答えることができれば選択肢は1つに絞ることができるため、あまりこだわらなくてもいいと思います。

まず、国内の原子力発電で多く採用されている原子炉の型式は、軽水炉です。冷却材と減速材に軽水を使用していることから、このような名前が付いています。なお、軽水炉の燃料には低濃縮ウランが用いられます。

よって、( ア )には「低濃縮ウラン」が、( イ )には「減速材」が入ります。

また、軽水炉は沸騰水型と加圧水型の2種類に細分できます。以下の解説では本問を解くための簡単な説明に留めていますので、より詳しく把握しておきたい方は、沸騰水型原子力発電所(BWR)と加圧水型原子力発電所(PWR)のページを参照してください。

沸騰水型は、原子炉内で冷却材を加熱し、発生した蒸気を直接タービンに送るため、系統が単純になるのが特徴です。

加圧水型は、原子炉内で加熱された冷却材の沸騰を加圧器により防ぐとともに、一次冷却材ポンプで原子炉、蒸気発生器に冷却材を循環させます。そして、蒸気発生器で熱交換を行い、タービンに送る二次系の蒸気を発生させています。

つまり、原子炉圧力容器の中で直接蒸気を発生させるのが沸騰水型、別置の蒸気発生器で蒸気を発生させるのが加圧水型となります。

よって、( ウ )には「沸騰水型」が、( エ )には「加圧水型」が入ります。そして、この時点で選択肢は(1)しか残らないので、正解は(1)であることがわかります。

( オ )の選択肢には「ドップラー効果」と「ボイド効果」がありますが、以下でそれぞれの用語について解説します。ただし、解説の冒頭に書いた通り、これはあまり頻出事項ではないため、余裕があれば覚えておくくらいの考えで大丈夫だと思います。

軽水炉では、何らかの原因により原子炉の核分裂反応による熱出力が増加して、炉内温度が上昇することがあります。このような場合、ウラン238(核分裂しにくい物質)による中性子の吸収が増加し、その分、ウラン235(核分裂しやすい物質)が中性子を吸収しにくくなって核分裂が減ります。

そうすると原子炉の出力が自然に抑制され、温度も下がっていきます。こうした効果のことを「ドップラー効果」といい、このような自己制御によって、原子炉は安全に稼働することができます。

【ドップラー効果】

  1. 炉内温度が上昇する
  2. ウラン238(核分裂しにくい物質)による中性子の吸収が増加する
  3. ウラン235(核分裂しやすい物質)による中性子の吸収が減る
  4. 核分裂が減る
  5. 炉内温度が低下する
  6. 以上の自己制御により、原子炉の安定性が増す

また、同様に炉内温度が上昇した場合、水の密度が小さくなって、軽水の減速材としての働きが弱まります。そうすると、ウラン235(核分裂しやすい物質)が中性子を吸収しにくくなり、核分裂が減り、結果として炉内温度を低下させる効果があります。

このような効果を「ボイド効果」といい、これもドップラー効果と同様に、原子炉の自己制御に役立っています。

【ボイド効果】

  1. 炉内温度が上昇する
  2. 水(軽水)の密度が小さくなる
  3. 水(軽水)の減速材としての働きが弱まる
  4. ウラン235(核分裂しやすい物質)による中性子の吸収が減る
  5. 核分裂が減る
  6. 炉内温度が低下する
  7. 以上の自己制御により、原子炉の安定性が増す

よって、( オ )の含む文章は、ウラン238による中性子の吸収が増加する話なので、( オ )には「ドップラー効果」を入れるのが適切だと判断できます。

以上から、正解は(1)となります。

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