電験三種 R4年度上期 理論 問18 問題と解説

 問 題     

図1、図2及び図3は、トランジスタ増幅器のバイアス回路を示す。次の(a)及び(b)の問に答えよ。

ただし、VCCは電源電圧、VBはベース電圧、IBはベース電流、ICはコレクタ電流、IEはエミッタ電流、R、RB、RC及びREは抵抗を示す。

(a) 次の①式、②式及び③式は、図1、図2及び図3のいずれかの回路のベース・エミッタ間の電圧VBEを示す。

上記の式と図の組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

  •  ①式  ②式  ③式
  1.   図1   図2   図3
  2.   図2   図3   図1
  3.   図3   図1   図2
  4.   図1   図3   図2
  5.   図3   図2   図1

(b) 次の文章a、b及びcは、それぞれのバイアス回路における周囲温度の変化と電流ICとの関係について述べたものである。

ただし、hFEは直流電流増幅率を表す。

  1. 温度上昇によりhFEが増加するとICが増加し、バイアス安定度が悪いバイアス回路の図は( ア )である。
  2. hFEの変化によりICが増加しようとすると、VBはほぼ一定であるからVBEが減少するので、ICやIEの増加を妨げるように働く。ICの変化の割合が比較的低く、バイアス安定度が良いものの、電力損失が大きいバイアス回路の図は( イ )である。
  3. hFEの変化によりICが増加しようとすると、RCの電圧降下も増加することでコレクタ・エミッタ間の電圧VCEが低下する。これによりRの電圧が減少してIBが減少するので、ICの増加が抑えられるバイアス回路の図は( ウ )である。

上記の記述中の空白箇所(ア)~(ウ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

  •  ア    イ    ウ
  1. 図1  図2  図3
  2. 図2  図3  図1
  3. 図3  図1  図2
  4. 図1  図3  図2
  5. 図2  図1  図3

 

 

 

 

 

正解 (a)-(3), (b)-(4)

 解 説    

(a)

設問にある①式、②式、③式はいずれも左辺がVBEとなっているので、図1,2,3のそれぞれでVBEを含んだ閉回路に注目し、キルヒホッフの第二法則(電圧則)を使って式を立てていきます。

まずは図1について考えると、VBEを含む閉回路は下図の赤線で示したところとなります。

上図より、この回路に対してキルヒホッフの第二法則(電圧則)を使うと、下式で表すことができます。

よって、図1は②式に対応することがわかります。

続いて図2について考えると、VBEを含む閉回路は下図の赤線で示したところとなります。

上図より、この回路に対してキルヒホッフの第二法則(電圧則)を使うと、下式で表すことができます。

よって、図2は③式に対応することがわかります。

最後に図3について考えます。今回はVBEを含む閉回路をどこにするか悩むかもしれませんが、すでに消去法で図3は①式に対応するはずだとわかっているので、①式に書かれているVB、IE、REを使った閉回路にするとよいと思います(ほかの閉回路を選んでも解くことは可能です)。

上図より、この回路に対してキルヒホッフの第二法則(電圧則)を使うと、下式で表すことができます。

よって、図3は①式に対応することがわかります。

以上から、①式が図3、②式が図1、③式が図2に対応するので、正解は(3)となります。

(b)

設問(b)に書かれているのは、エミッタ接地増幅回路における3種類のバイアス回路に関する記述です。この問題は知識がないと考えにくい上、バイアス回路の特徴に関する出題は珍しいので、やや難易度の高い出題であるといえます。

まず、バイアス回路は主に次の3種類に分類されます。

  • 固定バイアス回路
  • 自己バイアス回路
  • 電流帰還バイアス回路

【固定バイアス回路】

固定バイアス回路とは、問題の図1で示されるような回路であり、電源とベースの間を1つの抵抗Rでつなげばよいだけの簡単な構造となっています。

後述する自己バイアス回路や電流帰還バイアス回路と違って直流電流増幅率hFEの変化に対応する術を持たないため、温度変化に弱く、安定度が悪いといえます。

よって、設問(b)のaの文章が固定バイアス回路の説明文であり、( ア )には「図1」が該当します。

【自己バイアス回路】

自己バイアス回路とは、問題の図2で示されるような回路であり、コレクタとベースに抵抗Rをつないでいるのが構造上の特徴です。

以下の解説文は図2を確認しながら読むことをお勧めします。

周囲の温度変化によって直流電流増幅率hFEが上昇すると、直接的にはICが上がることになります。すると、RCを流れる電流が増えるので、RCのところの電圧降下も増加します。その分、コレクタ・エミッタ間の電圧VCEが低下します。

そうなると、これに応じてIBが減少するため、ICも減少する方向に働きます。そのため、結果として、hFEが上昇してもICが上がりにくくなる構造をしています。

よって、設問(b)のcの文章が自己バイアス回路の説明文であり、( ウ )には「図2」が該当します。

【電流帰還バイアス回路】

電流帰還バイアス回路とは、問題の図3で示されるような回路であり、最も抵抗の数が多くて複雑な構造をしています。もちろん複雑にするだけのメリットがあるわけで、周囲の温度変化によって直流電流増幅率hFEが変わってもICの変化を抑えることができ、バイアスの安定度が高いです。

その仕組みを理解するためには、先ほどと同様、以下の解説文は図3を確認しながら読むことをお勧めします。

まず、hFEが上昇すると、直接的にはICが上がることになります。すると、REを流れる電流が増えるので、REのところの電圧降下も増加します。一方でVBの値が変わらないので、REの電圧降下が増えた分だけVBEが減少することになります。

そして、VBEが減少すればICやIEも減少するため、結果として、hFEが上昇してもICがあまり上がらないようになっています。

よって、設問(b)のbの文章が電流帰還バイアス回路の説明文であり、( イ )には「図3」が該当します。

以上から、( ア )が図1、( イ )が図3、( ウ )が図2に対応するので、正解は(4)となります。

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