問 題
変圧器に関する記述として、誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
- 無負荷の変圧器の一次巻線に正弦波交流電圧を加えると、鉄心には磁気飽和現象やヒステリシス現象が生じるので電流は非正弦波電流となる。この電流を励磁電流といい、第3次をはじめとする多くの次数の高調波を含む。
- 変圧器の励磁電流のうち、一次電圧と同相成分を鉄損電流、π/2[rad]遅れた成分を磁化電流という。
- 変圧器の鉄損には主にヒステリシス損と渦電流損がある。電源の周波数をf、鉄心に用いる電磁鋼板の厚さをtとすると、ヒステリシス損はfに比例し、渦電流損は(f×t)の2乗に比例する。ただし、鉄心の磁束密度を同一とする。
- 変圧器の損失には主に鉄損と銅損があり、両者が等しくなったときに最大効率となる。無負荷損の主なものは鉄損で、電圧と周波数が一定であれば負荷に関係なく一定である。また、負荷損の主なものは銅損で、負荷電流の2乗に比例する。
- 変圧器の等価回路において、励磁回路は励磁コンダクタンスと励磁サセプタンスで構成される。両者を合わせて励磁アドミタンスという。励磁コンダクタンスに流れる電流は磁化電流に対応し、励磁サセプタンスで発生する損失は鉄損に対応している。
解 説
(1)は正しいです。変圧器の鉄心は磁気特性が非線形であり、入力電圧に対して磁束密度が飽和すると、励磁電流は正弦波からひずみます。また、鉄心のヒステリシス特性により、磁束密度と磁場強度の間に位相差が生じます。これらの現象により、励磁電流は非正弦波電流となり、高調波成分を含みます。
(2)も正しいです。励磁電流は、鉄損によるエネルギー消費を表す鉄損電流と、磁束を発生させる磁化電流に分解できます。鉄損電流は有効電流であるため一次電圧と同相となり、磁化電流は無効電流で一次電圧に対してπ/2[rad]遅れます。
(3)も正しいです。ヒステリシス損は、鉄心の磁気特性により、磁束密度の変化に対して磁場強度が遅れることで生じるエネルギー損失です。これはヒステリシスループの面積に比例し、磁束密度が一定であれば周波数に比例します。
また、渦電流損は、鉄心に生じる誘導電流によるジュール熱によるエネルギー損失です。やや難易度の高い知識ですが、渦電流損は次に示す式で表されます。よって、渦電流損は(f×t)の2乗に比例します。
- Pe:渦電流損
- k:比例定数
- t:鉄板の厚さ
- f:周波数
- Bm:最大磁束密度
- ρ:磁性体の抵抗率
(4)も正しいです。変圧器の損失は、鉄損と銅損の和で表されます。鉄損は無負荷損と呼ばれ、鉄心に生じるヒステリシス損と渦電流損のことです。銅損は負荷損と呼ばれ、巻線の電気抵抗によるジュール熱のことです。
また、変圧器の損失が最小となる負荷電流は、鉄損と銅損が等しくなるときであり、このとき効率が最大となります。
(5)が誤っています。前半の文章は正しいですが、まずはこの部分の用語の確認をしておきます。コンダクタンスG[S]とは、抵抗R[Ω]の逆数です。また、サセプタンスB[S]はリアクタンスX[Ω]の逆数、アドミタンスY[S]はインピーダンスZ[Ω]の逆数なので、以下のように表すことができます。
このことから、変圧器の等価回路において、励磁回路は励磁コンダクタンスと励磁サセプタンスで構成され、両者を合わせたものが励磁アドミタンスとなります。
ここで、(2)で解説したように、励磁電流のうち、励磁コンダクタンスを流れる有効電流に相当するものが鉄損電流で、励磁サセプタンスを流れる無効電流に相当するものが磁化電流です。
そのため、励磁コンダクタンスに流れる電流は「鉄損」に対応し、励磁サセプタンスで発生する損失は「磁化電流」に対応します。よって、(5)の文章は「磁化電流」と「鉄損」が反対になっているので、正解は(5)となります。
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