問 題
次の文章は、原子炉の型と特性に関する記述である。
軽水炉は、( ア )を原子燃料とし、冷却材と( イ )に軽水を用いた原子炉であり、我が国の商用原子力発電所に広く用いられている。この軽水炉には、蒸気を原子炉の中で直接発生する( ウ )原子炉と蒸気発生器を介して蒸気を作る( エ )原子炉とがある。
軽水炉では、何らかの原因により原子炉の核分裂反応による熱出力が増加して、炉内温度が上昇した場合でも、燃料の温度上昇にともなってウラン238による中性子の吸収が増加する( オ )により、出力が抑制される。このような働きを原子炉の固有の安全性という。
上記の記述中の空白箇所(ア)~(オ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
- (ア) (イ) (ウ) (エ) (オ)
- 低濃縮ウラン 減速材 沸騰水型 加圧水型 ドップラー効果
- 高濃縮ウラン 減速材 沸騰水型 加圧水型 ボイド効果
- プルトニウム 加速材 加圧水型 沸騰水型 ボイド効果
- 低濃縮ウラン 減速材 加圧水型 沸騰水型 ボイド効果
- 高濃縮ウラン 加速材 沸騰水型 加圧水型 ドップラー効果
解 説
本問では( ア )~( エ )は基本的かつ頻出テーマなので、必ず押さえておきたい知識です。一方で、( オ )に関してはややマイナーな知識ですが、( ア )~( エ )を正しく答えることができれば選択肢は1つに絞ることができるため、あまりこだわらなくてもいいと思います。
まず、国内の原子力発電で多く採用されている原子炉の型式は、軽水炉です。冷却材と減速材に軽水を使用していることから、このような名前が付いています。なお、軽水炉の燃料には低濃縮ウランが用いられます。
よって、( ア )には「低濃縮ウラン」が、( イ )には「減速材」が入ります。
また、軽水炉は沸騰水型と加圧水型の2種類に細分できます。以下の解説では本問を解くための簡単な説明に留めていますので、より詳しく把握しておきたい方は、沸騰水型原子力発電所(BWR)と加圧水型原子力発電所(PWR)のページを参照してください。
沸騰水型は、原子炉内で冷却材を加熱し、発生した蒸気を直接タービンに送るため、系統が単純になるのが特徴です。
加圧水型は、原子炉内で加熱された冷却材の沸騰を加圧器により防ぐとともに、一次冷却材ポンプで原子炉、蒸気発生器に冷却材を循環させます。そして、蒸気発生器で熱交換を行い、タービンに送る二次系の蒸気を発生させています。
つまり、原子炉圧力容器の中で直接蒸気を発生させるのが沸騰水型、別置の蒸気発生器で蒸気を発生させるのが加圧水型となります。
よって、( ウ )には「沸騰水型」が、( エ )には「加圧水型」が入ります。そして、この時点で選択肢は(1)しか残らないので、正解は(1)であることがわかります。
( オ )の選択肢には「ドップラー効果」と「ボイド効果」がありますが、以下でそれぞれの用語について解説します。ただし、解説の冒頭に書いた通り、これはあまり頻出事項ではないため、余裕があれば覚えておくくらいの考えで大丈夫だと思います。
軽水炉では、何らかの原因により原子炉の核分裂反応による熱出力が増加して、炉内温度が上昇することがあります。このような場合、ウラン238(核分裂しにくい物質)による中性子の吸収が増加し、その分、ウラン235(核分裂しやすい物質)が中性子を吸収しにくくなって核分裂が減ります。
そうすると原子炉の出力が自然に抑制され、温度も下がっていきます。こうした効果のことを「ドップラー効果」といい、このような自己制御によって、原子炉は安全に稼働することができます。
【ドップラー効果】
- 炉内温度が上昇する
- ウラン238(核分裂しにくい物質)による中性子の吸収が増加する
- ウラン235(核分裂しやすい物質)による中性子の吸収が減る
- 核分裂が減る
- 炉内温度が低下する
- 以上の自己制御により、原子炉の安定性が増す
また、同様に炉内温度が上昇した場合、水の密度が小さくなって、軽水の減速材としての働きが弱まります。そうすると、ウラン235(核分裂しやすい物質)が中性子を吸収しにくくなり、核分裂が減り、結果として炉内温度を低下させる効果があります。
このような効果を「ボイド効果」といい、これもドップラー効果と同様に、原子炉の自己制御に役立っています。
【ボイド効果】
- 炉内温度が上昇する
- 水(軽水)の密度が小さくなる
- 水(軽水)の減速材としての働きが弱まる
- ウラン235(核分裂しやすい物質)による中性子の吸収が減る
- 核分裂が減る
- 炉内温度が低下する
- 以上の自己制御により、原子炉の安定性が増す
よって、( オ )の含む文章は、ウラン238による中性子の吸収が増加する話なので、( オ )には「ドップラー効果」を入れるのが適切だと判断できます。
以上から、正解は(1)となります。
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